今日のモーニングコールも昨日と同じく朝5時だ。駅の窓口で切符を買う必要があったので、5時半過ぎにホテル出発。早朝の西門はさすがに静かだが、すでに小吃店で麺をすする若者がいたり、ベンチに座っておしゃべりに興じるおばあさん達、犬の散歩をさせているおじさんなど、人通りも結構ある。郵便局前では、掃除に励むおじいさんが昨日と同じくおはようと声を掛けてくる。元気にお返事の私たちであった。朝日を浴びる台北車站は何だかすがすがしかった。駅の入口に新聞を並べて売るおじさん達がいた。やはり定価より安く売ってくれるのだろうか。
窓口に急ぎ、6:15発平快蘇澳ゆき切符を購入し、コンビニで三明治と統一ブランドのパパイヤミルクを買う。ビールを物色していた友達も、慌てて一緒のパパイヤミルクを選んだ。ホームへ降りるとまもなく列車が到着。冷房なしの、古い車両だ。これは楽しそうだ。乗客も結構多い。満席で台北を出発。学生や通勤らしき人、おじいさん、いろんな人がいる。友達はパパイヤミルクのパックがおいしかったようで、ご満悦の様子であった。
たまたま最初に座った席は進行方向から左側で、日陰になり外の景色を楽しめたのだが、少々がたがきていて座りづらかった。しかし、しばらくすると乗客も減り、向かって右側に移動する。ちょうどこちら側が日陰になる頃だった。私たちの乗った車両の前は行李車で、中をのぞくと横シートの座席が少しだけあるがらんとした車両だった。もちろん乗客の姿も見えた。

扇風機が天井でくるくる回り、早朝の涼しい風を送ってくる。鈍行列車の揺れは心地よく、友達はすっかり寝入ってしまっていた。私もうとうとしたが、亀山島が車窓に見えた瞬間、目も覚めて暑いというのに窓にかじりついてしまった。獅子博物館へ行って以来、亀山から頭城の景色がお気に入りとなったのだ。目が覚めて本当によかった。列車は私の大好きな場所を幾つも通り過ぎていった。
車窓から亀山島をのぞむ。



二結車站の何気ない風景。
強い日差しのせいで、そろそろ車内も暑くなってきた。しかし、目の高さまで上げてある窓から風が吹き込んできて気持ちがいい。列車の窓越しに見える風景はどうしてこんなに見飽きることがないのだろう。しかも、暑い季節に窓を上げて外を見るなんて久しぶりだ。季節を身体で感じ、風景を味わい、小さな駅の風情を愛でる。二結車站に停車したとき、車窓から見えたなんでもない素朴な風景が妙に気に入った。そんな場面が幾つもあるところが、鈍行列車旅行の醍醐味だろう。



友達は羅東の手前ぐらいで起き出した。扇風機の風と列車の揺れの心地よさに眠りこけてしまったとのこと。早朝に乗るなら、ぜひこの冷房なし車両をおすすめするわ!と力説していた。そして、強い日差しが差し込む窓側の座席で、窓に近い左腕があついため手をあげてあちこち動かしながら、それでも座っている私を見て笑っているのだった。
蘇澳車站へ到着する手前、セメント工場があった。ここからセメント列車が出ているそうだが、いつかぜひとも一度その働く姿を拝見したいものだ。
列車は遅れることなく、ほぼ定刻に蘇澳へ到着した。いつの間にか、乗客もまばらになっていた。全員が降りた後、車内の写真を撮っていたら、駅員さんに終点ですよと言われてしまった。恥ずかしい
平快車内全体。天井には扇風機がまわっているよ。




蘇澳金刀比羅神社の石灯籠。

がんばる小さな獅子。
狛犬と勘違いしていました。
駅を出るとまぶしい!雲ひとつない快晴だ。駅前にたむろってるタクシーの中できれいな車両を選んで声を掛ける。砲台山までの料金を確認後乗り込む。フロントガラスのサンシェードをぱくっと勢いよく端へ寄せる。アコーディオンカーテンのようで便利そうだ。砲台山へは徒歩でもゆけるようだが、よほど季節のよいときの話だろう。海抜約300mといえども侮れない。
程なく到着したので、タクシーに待っていてもらい神社跡へ。片倉佳史さんの著書『台湾日治時代遺跡』の紹介によると、ここには航海の安全と大漁を祈願する蘇澳金刀比羅神社があり、それは蘇澳の漁師たちが建てたそうだ。よほど蘇澳での漁は大変だったのであろう。しかし光復後神社は取り壊され、蘇澳港を見下ろせる場所には石灯籠がぽつんと残されていた。叢に埋もれる石灯籠もあった。




そして肝心の狛犬だが、実は写真で紹介されていたちいさな獅子(天君廟前に石灯籠の下半分、更にそこへレンガを適当に積み上げたものを台座として据えられている)を見て、その後姿から勝手に扇尾の狛犬と思い込んでいたのだった。今見直すと、確かに頭部は獅子っぽい。しかし、さみしげな姿ばかりが気になっていたのだ。そして、勘違いしたまま勢いよく会いに行ってしまったのだった。その獅子だが、今ではレンガは取り払われ、台座もきれいに塗り上げてもらい、更にかわいくリボンがけされ、さみしさのかけらも残さず元気いっぱい廟を守っていたのだった。
神社跡より蘇澳港をのぞむ。
海がよくみえる場所に建てられていたのだ。



蘇澳冷泉入口。
青空にカラフルな飾り付けがまぶしく映える。

蘇澳冷泉プール。子供たちがおおはしゃぎ。
底は浅いが、やはり冷泉だからか。
狛犬はいなかったが、ここからの眺めは素晴らしかった。蘇澳の港が一望できるのだ。天候に恵まれたならば、足を伸ばすのもよいだろう。
再びタクシーに乗り込み、お待ちかねの冷泉へ。しかし、個室の冷泉(家庭浴池)がどこにあるかわからない。冷泉路の奥かとぶらぶら歩いてみる。市場ではいろんな魚が並べられていた。そうだ、この近くには蘇澳港があるんだ。浮き輪や水着を所狭しと並べた売店を横目に奥へゆくが、なにもない。来た道を引き返し、別の道を折れるが絶対違う。面倒なので冷泉プールの入口で聞こうと、チケットを切っていたお姉さんに尋ねた。すると、この奥にあるという。敷地は同じで、奥に別棟があるのだ。入り口で一旦、プールのチケットを購入してそれを持って奥にある建物へ行き、更に追加料金を払ってくださいといわれた。なるほど。初めから聞けばよかったよ。もう汗だくなので、冷泉が待ち遠しい。




中へ入り、通路をまっすぐ奥へ。プールからは子供たちの嬉しそうな声が聞こえる。しかしやはり平日だからか、そこそこの込み具合だ。一番奥までゆくと、家庭浴池の受け付けがあった。部屋がいっぱいかと心配したが、問題なかった。追加料金を払うと、すぐに部屋へと案内された。10時20分から11時までが利用時間だ。
蘇澳冷泉個室。




個室には棚があり、そこへ荷物を置くことができる。床には玉砂利が敷いてあるが、裸足で乗ると否応がなしにマッサージのサービスを受けることとなる。一度足を下ろしたら我慢してなるべく動かないのがよい。部屋の半分は浴槽で、結構大きい。そして掛け流しの冷泉は潤沢に湧きあがっている。

蘇澳冷泉湧き口。細かい気泡が出ている。

個室の中。
大きな浴槽と洗い場がある。



そして、いよいよ冷泉初体験だ。まず私が手桶で水をかぶる。も、ものすごく冷たい!年寄りの冷や水という諺が頭をよぎる。まずい、これはまずい。そろそろと浴槽につかる。しかし友達はそんな私を尻目に、いきなり全身に水を浴び出した。しかもすごい勢いで。そしてあっけにとられる私の横へ飛び込んでくると、手で水をすくい、私へ向かって思いっきりかけてくるのであった。ああ。ショックで死んだらどうするねん。そして浴槽に肩までつかった私達だった。
つかった当初は冷たくてたまらなかったが、しばらくすると不思議にあたたかさを感じ出した。そうなると熱いお湯と違い、長い時間つかっていられるのだ。壁に背中を当て、浴槽の床に敷いてある石をごろごろさせながらおしゃべりを楽しんだ。その間、あちこちの部屋から一瞬驚きの声があがってくるのが面白かった。私も驚きチームの一員だったが。
この冷泉は炭酸泉で、私の知り合いが夫婦でここへきた時、冷泉の人にすすめられてご主人が冷泉に顔をつけた話をしたところ、友達が絶対嘘や!と言い出した。しかし、美顔器みたいなものかとひとり納得しだし、勢いよく一番深いところまで顔を突っ込んでいった。そして、しきりに私にも勧める。私は耳が大変弱いので、水が入らないよう気をつけながら顔をつける。お約束で友達は頭を押してきた。細かい泡が顔に向かって上がってくる。そしてしびれるのだ。痛いくらいに。これは美顔にいいかもしれないと一瞬思ってしまった。
あほうなことを楽しんだ後、ようやく冷泉から上がった。着替えて外に出ると、体がよく冷えているせいで涼しく感じる。暑さに耐えられる身体になっているのだ。受付の建物には冷泉の水が出る水道があり、皆そこでペットボトルに水を詰めていた。友達が早速汲んで飲ませてくれたが、全然おいしくなかった。しばらく無言の私達だったが、友達はホテルの冷蔵庫で冷やしてから飲んだらおいしいかもしれない、と持ち帰ることにしたようだ。
(結局冷やして飲んだが、味もなにもないのでいまひとつだったとのこと。ジュースになっているやつを飲めばよかったと残念がっていた。)

蘇澳冷泉の水を汲む人々。蛇口があるのだ。
家庭浴池の受け付け前。
入ってすぐのカウンターで手続きをする。



左がピーナッツ、右がティラミス。
「提拉米蘇」だからそうかなあ。
家庭浴池のそばでは、香腸の屋台やアイスクリームの売店があった。先ほどすれ違った親子連れの父親が、泣いている子供に「ほらアイス買ってきたよ!」とビニール袋に入ったカップアイスを渡していたのを見た私たちは「あれどこで売ってるねん」と血眼状態だったのだ。出たところに売っていてよかった。

早速物色するが、カップは4種類。いちごを薦めてくれたが、どうせならと友達がピーナッツ、私がティラミス(たぶん)を買う。ティラミスは子供の頃に食べた安いカップアイスのチョコ味にミルクが足されたような味。ピーナッツはもろにピーナッツバターだった。なかなかうまいものだ。



帰りがけに友達の希望で蘇澳名物である羊羹を買いに行く。以前購入した大好きな宜蘭のガイドブック『宜蘭深度旅遊』によると、蘇澳の羊羹は日本人が伝えたもので、冷泉の水質と地元で取れる良質の寒天に目をつけ、羊羹工場をこさえたそうだ。炭酸効果のぷりぷりした食感が売りで、最近ではオーソドックスな羊羹以外にもチョコ、いちご、烏龍茶、緑茶、金棗、砂糖漬けの果物などいろんな味を揃えているそうだ。
老舗として名高い「鳳鳴羊羹」にて友達は全種類の羊羹と、甘そうなピーナッツの砂糖菓子を御土産に選んでいた。羊羹は棒型以外に一口サイズも各種そろっていた。初めて台湾を訪れたとき、花蓮のあんこ芋屋さんで「全種類1つずつください!」と叫んでお店の人が笑いながら袋に詰めてくれたのを思い出した。
満足のゆく買い物が済み、大通りを渡ると駅はすぐだった。11:38発の通勤電車で宜蘭まで出る。涼しい車内から見える街並みは、さんさんと降り注ぐ夏の光を受けて光り輝いており、気持ちのいいものであった。40分ほどで到着。お腹がすいたので先に昼食とする。とりあえず瑞芳行きの自強號だけ先に確保しておく。丁度14:44発に空席があったので助かった

地図を見て歩いても大丈夫と、「大漁翁」へ向かう。冷泉のおかげで、途中まではそう暑さを感じずに済んだが、刺すような日差しの下、じりじりと暑くなってきた。結局、20分近く歩いてしまった。「大漁翁」の赤い看板のもとへ早足で向かう。
大漁翁のカードより。
この広告に惹かれ、訪れたのだった。



店内はこぎれいで、レストランという雰囲気だった。席についてメニューをもらい、念願の宜蘭地方伝統料理中心にオーダーする。更に友達が壁のポスターにあるセイロ蒸しのようなご飯が食べたいと言うので尋ねたところ、どうもこれは予め予約しないといけないものでしかも量がかなり多いらしい。あとからじっくり読むと、どうやら子供が生まれてひと月目のお祝いとして送るごちそうセットらしい。そういう風習があるのか知らないが、たしかにそれをいきなり注文して食べることは無理だろう。結局台湾ビールとえび炒飯の他、注文した料理は以下のとおり。

◎ 紅糟肉 上等の五花肉を紅糟に漬け込んで味付けしたもの。ローストしてある肉は、ほんのり甘い不思議な味がする。紅糟は米こうじが原料の福建料理で使われる調味料。
◎ガオ渣 宜蘭人の気質を表す名菜で、見た目は涼しげだが中はやけどするほどに熱い料理。鳥胸肉スープ中心の味わいは淡白だがとろける食感が独特で、塩コショウをつけていただくとおいしい。
チケットを買う&獅子
◎肝花 クログワイをたたいて砕いたものと、魚のひしお・ねぎのみじん切り・ひき肉を混ぜ合わせたものと、細長く切った豚の肝をくるくる巻き上げ細長くして、油で揚げた料理。コクがある味だ。
◎金銭蝦餅 食べてみた感じでは、えびを軽くたたいてつぶしたものを小判型にして油で揚げたものだと思う。宜蘭ではまぼろしの地方料理となっていたものを、現代風にアレンジして復活させたらしい。
◎芋泥 ふかした里芋をつぶしたものにラード、卵、砂糖にオレンジピールを加えて蒸したもの。スタッフが器ごと運んできて、目の前で練り上げて小鉢にわけてくれる。こってりとしているが、オレンジがアクセントとなりくどさがなく、食後のデザートとして最高だった。

以上、大漁翁のパンフレットにあった説明をもとに感想を書いてみた。料理の内容がおかしいかもしれないが許してやってほしい・・・



もちろん、全て食べ尽くした。宜蘭の名菜を堪能することができて嬉しかった。初めて宜蘭を訪れたとき、駅で手にした大漁翁のパンフレットを見てからとりこになっていたのだ。待ち焦がれていた人にやっと会えたとき、こういう気持ちになるんじゃなかろうか。自分でも理由がよくわからないのだが、とにかく宜蘭縣が好きなのだ。
お勘定を済ませ、外へ出ると日差しはますます強さを増しており、まぶしくて仕方がない。目が痛くて涙が出てきた。大通りに出ようとしたら、その手前部分が丁度舗装中でアスファルトが霧のようになって飛んできた。顔にまでついて辟易した。
交差点でタクシーを拾い、員山公園へ。10分ほどで到着した。立派な公園だ。かつての参道であろう、まっすぐな道が忠烈祠へと延びている。木陰のベンチで遊んでいた夏休み中の小学生が私たちに何度も手を振っていた。面白いのでばいばいと手を振りかえした。それを遠ざかるまで繰り返していた。[3日目(7/20)後半に続く

宜蘭神社は台湾の主要神社のひとつであったそうだ。